ショロとポノのライフログ

平野啓一郎『ある男』あらすじと感想〜ネタバレなしverとありver

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『ある男』レビュー〜ネタバレありver

ここからはネタバレありで、率直な感想を書き連ねてまいりたいと思います。

優しく温かい愛の描写はもちろん味わえたのですが、最後のほうで、城戸が美涼からの誘惑を振り切るシーンの心理描写、すごく匠ではありませんか?「え、これは明らか好きだよね?なんでここまで鈍感なの…?」と思わせておきながら、実際に城戸自身がそうではないと思い込み最後まで「装う」ことを心に決めて、美涼と対峙していた場面。その時間をまさに共有しているかのような錯覚に陥る臨場感。おそらくこの装いに対して自分自身で疑いを一瞬でも持ったら、崩れていくであろう危うさがありました。城戸の直感的な判断、誠実さたるや感動の域!ここの数ページでさらに平野啓一郎が好きになりました。

それからやはり、「大祐」の息子の俳句は非常に印象的でした。子どもから大人になりかけの、最も繊細な思春期に、通常の人であれば経験しないようなつらい出来事を複数経験して。それでいて実は父親は別人だったなどと知って、行き場のない怒りや悲しみ、不可解で複雑な感情を抱いていたであろうことは言うまでもありません。夏の空の下、純粋な心で感受性を研ぎ澄ませ、蝉の声と桜の木に「父親」を重ねる姿を想像すると、苦しくて泣けてきました。紛れもなく「大祐」は彼の父親であり、これからもそうなのでしょう。彼なりに藻搔いた結果、自分の力で辿り着いた捌け口が文学という表現方法だったというのが、美しく、でもどこか頼もしく伝わってきました。

「大祐」は妻からも子どもからも、「本当の自分」として愛されることはできなかったけれど、本当に愛されていたことは事実で、本当に愛していたことも事実でした。里枝も子どものことも大事で、守りたかった「大祐」の気持ちと、妹を守りたいという息子の成長とが、優しく切なく心に響いてきました。

最後までお読みいただきありがとうございました。まだ読んでいないのにここまできてしまった方は、ぜひ読んでみてください。後半の人物関係がやや難解ですが面白いです。人物相関図を書きながら読みました。

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