2019年の本屋大賞にノミネートされた、平野啓一郎の長編小説『ある男』を読みました。平野啓一郎作品は、個人的には難解なイメージがありましたが、この作品は読みやすく、ハラハラするスリルがあり、とても面白かったです。感想をネタバレなしバージョンとなしバージョンに分けてお伝えします。
平野啓一郎のご紹介
はじめに簡単に著者紹介から。平野啓一郎は1975年生まれ、43歳の小説家です。京都大学法学部卒で、在学中に執筆した『日蝕』でデビューし、芥川賞を受賞しました。
代表作としては『マチネの終わりに』、『決壊』、『ドーン』、『透明な迷宮』などが挙げられます。このうち『マチネの終わりに』は最近文庫化され、今年11月に映画化が決まっています。せつない大人の恋愛小説です。主演が福山雅治・石田ゆり子ということで、映画『マチネの終わりに』の映像も素敵に違いない…!公開が待ち遠しいです。
『ある男』レビュー〜ネタバレなしver
まずはネタバレなしで読んでみた感想をお伝えしたいと思います。
あらすじ
愛したはずの夫は、まったくの別人であった ー
弁護士の城戸は、過去扱った案件の依頼人である里枝から「ある男」について奇妙な相談を受けました。様々な苦労を乗り越えて、夫と子どもと幸せに暮らしていた彼女でしたが、ある日突然最愛の夫「大祐」を事故で亡くします。悲しみに暮れる一家のもとに、実は「大祐」がまったくの別人だったという衝撃の事実がもたらされるのです。城戸は真実を突き止めるべく、過去を変えて生きた「ある男」の人生を追います。
レビュー
どうして「大祐」は別人として生きたのか?なぜそのような大掛かりな嘘を突き通す必要があったのか?読み進めていくと徐々に謎が明らかになり、ハラハラするストーリー展開にどんどん引き込まれていきます。特に後半は一気に読みました。固く閉ざされた過去の秘密に迫って、真実を知る過程はとても恐いものです。でも、「大祐」の嘘は愛と優しさのうえに成り立っていて、その嘘には切なくもある種の真実と重なる部分もありました。嘘と真実には境界線を引けないこともあるのかもしれません。
「一体、愛に過去は必要なのだろうか?」という里枝の問いかけには、単純に「必要だ」とも「不要だ」とも答えられませんが、真実として受け止めるべきは、確かに愛していること、確かに愛されていたこと、そしてその証があることだと、私は思いました。
さて、ここからはネタバレありの感想を補足的に書いていきます。まだ読んでいない方はここまででお引き取りください。笑