万引き家族、海よりもまだ深く、歩いても 歩いても|Amazon prime対象の名作映画〜是枝監督作品編〜

[ 最終更新日 11.22.2021 ]

Amazon prime対象作品となっている映画の中から、おすすめをシリーズで紹介していきます。是枝監督作品編の今回は、『万引き家族』、『海よりもまだ深く』、『歩いても 歩いても』の3作品。それぞれのストーリーや見どころを簡単にお伝えしていきます。

是枝裕和監督について

もはやわざわざ紹介するまでもない有名な方ではありますが、是枝裕和(ひろかず)監督について少しだけ。

是枝監督は元々はドキュメンタリー番組を多く手掛けた番組製作会社、株式会社テレビマンユニオンのディレクターでした。仕事を通じて福祉と社会の在り方を目の当たりするなかで、一般の方々の暮らしに寄り添う作品を作りたいと考えるようになったそうです。57歳の現在は、母校である早稲田大学の基幹理工学部表現工学科教授もなさっています*1

主な作品には今回ご紹介する3作品『万引き家族』、『海よりもまだ深く』、『歩いても 歩いても』のほか、当時子役だった柳楽優弥の名演技が強烈に印象に残る『誰も知らない』や、福山雅治主演の『そして父になる』、『三度目の殺人』、綾瀬はるか・長澤まさみ・夏帆・広瀬すずの4姉妹が登場する『海街diary』などがあります。国内外で高い評価を受けている日本人映画監督の1人です。

最近の作品としては、10月11日より上映中の『真実』が話題です。監督初の国際共同製作の作品で、日本人として初めてヴェネチア国際映画祭コンペティション部門オープニング作品に選出されました。演者は外国の俳優さんたちですが、Cinema Cafe.net*2によると、是枝監督作品によく見られるホームコメディ要素も盛り込まれ、親しみのわく作品のようです。

『万引き家族』について

まずは第71回カンヌ国際映画祭で、最高賞であるパルム・ドールを獲得した『万引き家族』からご紹介します。

映画概要

監督 是枝裕和
脚本 是枝裕和
原案 是枝裕和
音楽 細野晴臣
制作会社 フジテレビ、AOI Pro.、GAGA
公開 日本 2018年6月8日
香港・タイ・韓国 2018年7月
中国 2018年8月
アメリカ 2018年11月
フランス・ドイツ 2018年12月
興行収入 45.5億円

あらすじ

東京下町で生活する柴田家は、家長である治(リリー・フランキー)と妻の信代(安藤サクラ)、治の母・初枝(樹木希林)、息子の翔太(城桧吏)、信代の妹の亜紀(松岡茉優)の5人暮らし。日雇い労働者の治とパートの信代の給料だけでは生活費が工面できず、初枝の年金と、治と翔太の親子による万引きで生計を立てていました。貧しいながらも笑顔の絶えない家庭でした。

ある日、治は虐待を受ける幼い少女・じゅり(佐々木みゆ)と出会います。可哀想になった治は彼女を柴田家に連れ帰り、「りん」と名付けて同居することにしました。りんを交えた一家は万引きを始めとするなんらかの犯罪や不正に手を染めながらも、家族の絆は深まっていくのでした。

見かけ上は一家団欒を満喫していた彼らでしたが、年老いた初江が病気にかかり、ほどなくして自宅で死去します。初枝は表向きには独居老人ということになっており、また死去したことがわかっては年金が受給できなくなってしまいます。初枝がいた事実を一家で隠蔽しようとしますが、徐々にほころびが生じ始め、驚くべき真実が明らかになっていきます・・・

主要キャスト

柴田治 リリー・フランキー
柴田信代 安藤サクラ
柴田初枝 樹木希林
柴田亜紀 松岡茉優
柴田翔太 城桧吏(じょうかいり)
北上じゅり(りん) 佐々木みゆ

見どころ

本当の「家族愛」とは何かを考えさせられる作品です。子どもに万引きをさせたり、学校に通わせなかったり、リリー・フランキー演じる治は、一般論で言えば「父親」失格です。しかし、すべてが壊れたときに、安藤サクラ演じる信代が発する「この子たちには、私たちじゃダメなんだよ」という言葉、治の「おじさんに戻るよ」という諦めの言葉には、たしかにそこに子どもたちへの真実の愛があったのだと、感じざるを得ませんでした。虐待を受ける「じゅり」と、可愛がって育てられる「りん」の対比も印象的です。

Movie Walker*3の取材によると、脚本段階では『万引き家族』ではなく『声に出して呼んで』というタイトルだったそうです。インパクトは『万引き家族』よりも薄れますが、本当は純粋に「お父さん」「お母さん」と呼ばれたかった治と信代の切ない心情が、そのエピソードからも伺えます。

『海よりもまだ深く』について

続いて、阿部寛主演で、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門出品作品、ノルウェーの第26回フィルムズ・フロム・ザ・ハウス映画祭で最高賞であるシルバー・ミラー賞を受賞した『海よりもまだ深く』のご紹介です。

映画概要

監督 是枝裕和
脚本 是枝裕和
原案 是枝裕和
音楽 ハナレグミ
主題歌 ハナレグミ『深呼吸』
制作会社 フジテレビ、バンダイビジュアル、AOI Pro.、GAGA
公開 日本 2016年5月21日
興行収入 7.2億円

あらすじ

篠田良多(阿部寛)は、15年前に文学賞を1度とったきりの自称作家。「小説のため」と言い訳をしながら、探偵事務所に勤務し生計を立てていました。元妻の響子(真木よう子)からは愛想をつかされ離婚。また息子の養育費の支払いも滞りがち。おまけにギャンブル好きで、響子にできた新しい恋人に嫉妬して身辺調査までするという、ダメ人生を更新中の中年男です。

そんな良多でも息子の真悟(吉澤太陽)のことは可愛がっており、月に1度の面会日を楽しみにしていました。ある日、良多の母、つまり真悟のおばあちゃんでもある淑子(樹木希林)の住む団地に、3人で遊びに行くことになります。台風の接近で帰れなくなり、「元」家族の3人は久しぶりに一緒の時間を過ごすことになるのでした。

主要キャスト

篠田良多 阿部寛
白石響子(良多の元妻) 真木よう子
中島千奈津(良多の姉) 小林聡美
山辺康一郎 リリー・フランキー
町田健斗 池松壮亮
白石真悟(良多の息子) 吉澤太陽
愛美(まなみ) 中村ゆり
福住 小澤征悦
三好 古舘寛治
篠田淑子(良多の母) 樹木希林

見どころ

気分がグッと高揚するような盛り上がりはなく、日常の延長線上にあるような、静かで温かみのある作品です。親子とは何か、家族とは何かを考えて、胸にじんとくる、いい映画でした。

私が印象に残ったセリフは2つで、1つは、老いて死を意識する年齢になったおばあちゃん・淑子(樹木希林)の「海よりも深く愛せるような人はなかなかいないわよ、だから人は生きていけるのよ」というもの。もう1つは良多の上司・山辺(リリー・フランキー)の「誰かの過去になる勇気を持つっていうのが、大人の男ってもんだよ」というものです。

2人のセリフを聞きながら、必然的に通り過ぎていった人たちと、これから通り過ぎるかもしれない人たちとを思い浮かべて、なんとなく過去になっていくことも、あるいは時に意志を持って過去にしていくことも、いずれも前に進むということなのかなと、私なりに解釈しました。

作品のテーマは「みんながなりたかった大人になれるわけじゃない」。主人公は作家としての成功を夢見ていましたが、家庭を崩壊させ、探偵事務所で働くのが現実の姿です。思い描いた理想があるのに、「こんなはずじゃなかった」と思い悩む彼の姿には、ある種の共感を抱く方も多いのではないでしょうか。

『歩いても 歩いても』について

最後に『歩いても 歩いても』をご紹介します。ちなみにこのタイトルは1969年に大ヒットしたいしだあゆみの歌謡曲「ブルー・ライト・ヨコハマ」の一節からとっています。

映画概要

監督 是枝裕和
脚本 是枝裕和
原作 是枝裕和
音楽 ゴンチチ
制作会社 エンジンネットワーク
公開 日本 2008年6月28日

あらすじ

夏の終わり、横山良多(阿部寛)は、妻(夏川結衣)と息子(田中祥平)を連れて実家を訪れました。良多の父(原田芳雄)は厳格な性格の医者で、昔からそりが合いません。現在良多は失業中ということもあり、気が重い帰京です。性格の明るい姉(YOU)の一家もやってきて、横山家は久しぶりに賑やかな雰囲気に包まれました。よくある家族の風景ですが、その日は15年前に亡くなった横山家の長男の命日なのでした。

主要キャスト

横山良多 阿部寛
横山ゆかり(良多の妻) 夏川結衣
片岡ちなみ(良多の姉) YOU
片岡信夫(ちなみの夫) 高橋和也
横山あつし(良多の息子) 田中祥平
横山とし子(良多の母) 樹木希林
横山恭平(良多の父) 原田芳雄

見どころ

跡継ぎにと期待していた長男に先立たれた父親の無念、母親の痛み、そんな優秀な兄といつも比べられてきた良多の複雑な気持ち。いつも「ちょっとだけ間に合わない」良多のふがいなさと、それでも何気ない会話の節々に感じられる家族の繋がりに注目しながら観ていただければと思います。

大事なものをなくしたら、他のもので埋めることはなかなかできないものです。正しい出口など存在せず、強いて言うなら時間が解決するという答えが1番近く、でもその時間がどのくらいかかるかはまた予測できません。失恋でもそうでしょうし、不慮の事故などで失われた命だと、より鮮明な記憶と共に時が止まるのだと思います。

樹木希林は名演技でした。亡くなった息子かもしれないからと、息子の命日に部屋に迷い込んできた蝶々を追うシーンは、憂いと恐怖感と危惧する気持ちと共感と、いろんな感覚が絶妙なバランスで構成されていました。我が子を亡くす経験とはおそらくそういうことなのだと感じました。

是枝監督作品の安定感は抜群!

以上、『万引き家族』、『海よりもまだ深く』、『歩いても 歩いても』のご紹介でした。是枝監督作品は日常に寄り添った心温まる作品が多く、役者の演技力も高く、感情移入しやすいと思います。まだ観ていない作品がある方は、ぜひ観てみてはいかがでしょうか。

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※この記事は2019/11/3時点の内容です。


*1|早稲田ウィークリー:是枝監督が記述した世界の軌跡, 2016/6/29
*2|Cinema cafe.net:【インタビュー】是枝裕和監督、『真実』でも魅せた“是枝流”の感動, 2019/10/17
*3|Movie Walker:『万引き家族』、最初のタイトルは『声を出して呼んで』だった!リリー・フランキーらが語る, 2018/6/7

Posted by
sholo

下町生まれ下町育ちの会社員。ウェブの企画・編集の仕事をしています。ライブに行くこと、三味線を弾くこと、映画を観ることなどが好き。