先日、クラシックコンサートへ行ってきました。オーケストラではなく、木管五重奏のアンサンブルです。木管五重奏には馴染みの薄い方が多いと思いますが、とても魅力的な編成となっています。そこで本記事では木管五重奏の楽器編成や、木管五重奏でよく知られている楽曲についてご紹介したいと思います。
木管五重奏とは
多彩な音色の楽器編成
木管五重奏とは、フルート、クラリネット、オーボエ、ファゴット(バスーン)、そしてホルンの5種類の管楽器で編成されている合奏をいいます。音の鳴らし方が多様なため、多彩な響きを持っているのが特徴的です。オーボエとファゴットだけダブルリードという同じ鳴らし方をしますが、他はすべて異なり、珍しい編成です。
(表1)木管五重奏 楽器別・音の鳴らし方
楽器名 | 音の鳴らし方 |
フルート | エアリード(ノンリード) |
クラリネット | シングルリード |
オーボエ | ダブルリード |
ファゴット | ダブルリード |
ホルン | リップリード |
木管五重奏の歴史は古く、今から約200年前、19世紀頃に確立されたといわれています。1817年にパリ音楽院の作曲家教授だったアントン・ライヒャが、この編成で作曲したのが始まりといわれています。木管五重奏の編成による曲は、木管五重奏曲と呼ばれます。
参考:紀尾井ホール「That’s KCO Entertainment ハッピー☆MOKU5アワー」
ちなみに、金管五重奏と呼ばれる楽器編成も存在しており、こちらは主にはトランペット2本、ホルン、トロンボーン、そしてチューバで編成されることが一般的です。ただし、トランペットの代わりにコルネットが使われたり、トロンボーンの代わりにユーフォニアムが使われたりするなど、組み合わせは様々です。
木管楽器と金管楽器の違い
ここで、木管楽器と金管楽器の違いについて触れておきましょう。吹いて音を鳴らす楽器は「管楽器」と呼ばれますが、管楽器は大きく「木管楽器」と「金管楽器」に分かれます。
木管楽器と金管楽器の違いは、奏者の唇の振動で音を鳴らすか否かです。金管楽器は唇の振動で音を鳴らします。一方、木管楽器は奏者の唇の振動ではなく、穴に息を吹き込んだり、薄い板を口に咥えて振動させたりすることで音を鳴らす楽器の総称です。
木でできているから木管楽器というわけではなく、たとえばフルートやサックスは金属ですが木管楽器の仲間です。
木管五重奏の楽器編成
それでは、木管五重奏の楽器編成をご紹介します。フルート、クラリネット、オーボエ、ファゴットは木管楽器、ホルンだけ金管楽器です。
フルート
フルートとは、木管楽器の仲間で、口から息を吹き込んで音を出す、多くは金属製・銀色の横笛です。音の高さを変える穴とそれを塞ぐキーが複数付いていて、キーを右側にして楽器を構えます。他の管楽器とは異なり「ノンリード」という方法、つまり口だけで音の出し方を変えるので、テンポの速い楽曲も滑らかに演奏することができます。その特性から、よく鳥の囀りを表現した曲で使われることがあります。
音量は大きくありませんが、高音域は特に澄んだよく通る音であり、オーケストラの編成でも埋もれず聞こえてきます。
クラリネット
クラリネットとは、木管楽器の一種で、息を吹き込みながら1枚の薄い板(シングルリード)を振動させて音を鳴らす、黒い縦笛のことをいいます。
木管楽器ならではの柔らかい音色で、低音から高音まで高音域。メロディーパートを担うことも多く、安定感のある低音で縁の下の力持ちになったかと思えば、ソロで主旋律を奏でるなど、活躍も幅広いのが特徴的な楽器です。
クラリネットは音域別にE♭クラリネット・B♭クラリネット・Aクラリネット・アルトクラリネット・バセットホルン・バスクラリネットなど複数の種類がありますが、最も一般的なのはB♭クラリネットです。
オーボエ
オーボエとは、木管楽器の一種で、息を吹き込みながら2枚の薄い板(ダブルリード)を振動させて音を出す縦笛です。
見た目はクラリネットによく似ていますが、吹き口がダブルリードであることの他、サイズがクラリネットよりも少し大きめです。また、楽器の先端(ベル)部分が、オーボエは丸っこい肉厚な形状をしていますが、クラリネットは先が広がっていています。
また、オーボエは息を吹き込む穴が狭く、演奏・息継ぎが難しい楽器ともいわれています。しかし、オーボエの音色はホール全体を包み込むようなやさしく朗らかな美しさで、しばしばオーケストラのソロパートも担当する花形楽器の一つです。
ファゴット(バスーン)
オーボエとは、木管楽器の一種で、オーボエと同様、息を吹き込みながら2枚の薄い板(ダブルリード)を振動させて音を出す縦笛です。別名バスーンとも呼ばれ、オーボエよりも一回り大きいサイズで、管が長く2つ折りになっているのが特徴的です。
音域はホルンとほぼ同じ、低音〜中音部を担当します。ツヤのあるやわらかで独特の音色、大きな跳躍・おどけたサウンドも出せる表現力の高さから、演奏に厚みを持たせる重要な役割を果たします。
ホルン
ホルンとは、金管楽器の仲間で、唇を振動させて音の高さを変える奏法をする楽器です。マウスピース(漏斗型の器具)を付けて音を吹き込みます。4m近い、長い管をくるくる丸めて収め、カタツムリのような見た目をしているのが特徴的です。先端部にある大きなベルから音を放ちます。
音色はやわらかく、他の木管楽器とも相性が良いとされていますが、金管楽器の編成で用いられる場合などには力強く、多彩な音色を出せることも魅力の一つです。
木管五重奏なのに、なぜホルン?
「木管」五重奏なのに、なぜ金管楽器であるホルンが入っているのでしょうか。それは金管楽器の中でも、ホルンはアンサンブルが盛んだった時代から大衆に非常に身近な楽器で、木管・金管の区別が意識されていない頃からよく木管楽器と一緒に演奏されていたためです。その後、「木管五重奏」と呼ばれるようになったといわれています。
トランペットは軍人や貴族のための高貴な楽器、トロンボーンは教会などで演奏される神聖な楽器とされている中、ホルンは他の木管楽器とも相性が良く、民衆にとって身近な存在だったようです。
木管五重奏曲のおすすめ
最後に、木管五重奏でおすすめの楽曲を紹介します。有名な曲や、比較的よく知られている作曲家の曲は次の通りです。
(表2)木管五重奏のおすすめ楽曲一覧
作曲家 | 国名 | 曲名 |
ジャック・イベール (1890-1962) | フランス | 木管五重奏曲のための3つの小品 |
クロード・ポール・タファネル (1844-1908) | フランス | 木管五重奏曲 |
ダリウス・ミヨー (1892-1974) | フランス | ルネ王の暖炉 |
カール・ニールセン (1865-1931) | デンマーク | 木管五重奏曲 |
サミュエル・バーバー (1910-1981) | アメリカ | 夏の音楽 |
パウル・ヒンデミット (1895-1963) | ドイツ | 5つの管楽器のための小室内楽曲 |
グスターヴ・ホルスト (1874-1934) | イギリス | 木管五重奏曲 |
私がコンサートで聴いたのは、隠れた名曲でした。YouTubeではほとんど視聴できませんが、参考までにこちらも併せてご紹介します。
(表3)木管五重奏の響き〜各国の隠れた名作曲家たち〜演奏曲一覧
作曲家 | 国名 | 曲名 |
アレクサンダー・フォン・ツェムリンスキー (1871-1942) | オーストリア | ユーモレスク |
フェレンツ・ファルカシュ (1905-2000) | ハンガリー | 17世紀のハンガリー古典舞曲集 |
カレヴィ・エンシオ・アホ (1949-) | フィンランド | 木管五重奏曲 第1番 |
ウジェーヌ・ジョゼフ・ボザ (1905-1991) | フランス | 木管五重奏のためのスケルツォ 作品48 |
ジョゼフ=ギィ・ロパルツ (1864-1955) | フランス | 2つの小品 |
カロル・ベッファ (1973-) | フランス | ファイブ・オ・クロック |
参考:かつしかシンフォニーヒルズ「木管五重奏の響き〜各国の隠れた名作曲家たち〜」, 2023/4/17
ときには木管五重奏で心豊かな時間を過ごそう
木管五重奏はオーケストラや吹奏楽に比べると馴染みが薄い室内楽かと思いますが、編成人数が少なく、特徴的な楽器が集まっているので、それぞれの個性が豊かに発揮されていて、とても心地良い楽曲となっています。私が聴きに行ったかつしかシンフォニーヒルズの他、様々なコンサート会場でも演奏会が開催されているかと思いますので、興味を持った方はぜひ生演奏を聴きに足を運んでみてください。